自動車産業は現在、T型フォードの時代以来の急速な進化を遂げています。自動車そのものの変化だけでなく、シェアリングエコノミーを中心に、自動車の利用法も変化しています。結果として、何十年もうまく機能していた技術や材料が時代遅れになっていきます。
車に関するルールの変化
自分の車を持つことはかつての米国人にとって独立の象徴でしたが、今では人気がなくなってきています。実のところ、PricewaterhouseCoopersによる2015年の調査によると、「利用する権利は新たな所有である」と考えている人は米国で成人の57%に上ります1。その裏付けとして、ある大手カーシェアリングサービスが年間10%の成長を遂げており、その会員の10%が入会後に車を処分したという報告があります。2
一方で、燃料効率基準は急速に引き上げられています。米国環境保護庁（Environmental Protection Agency：EPA）による現行の規制では、保有車両全体の平均燃費を2017年の15.5603 km/L（100 kmあたり6.4 L）から2025年には23.1703 km/L（100 kmあたり4.3 L）に向上させることが求められており、自動車業界はエンジンやシャシーの抜本的な変更を余儀なくされています。
こうした新しい需要によって、自動車の材料や設計は大きな変化を求められます。とはいえ、幸い、化学が新しいソリューションを提供しています。
車に関する新しい規定
燃費向上や排ガス低減を求める規制により、新型エンジンに使用される材料にはますます多くの要求事項が課されています。メーカーはエンジンサイズを小さくしてターボチャージャーを追加することにより、燃費を向上させています。ターボチャージャーは300,000 rpmもの高速で回転し、エンジンはたいてい換気や冷却が難しい、従来より狭い空間で、より高い内部圧力と高温に耐えながら動きます。
さらに、騒音規制の強化やより高い空力性能が必要とされることから、エンジンルームのサイズが小さくなり、その環境はより高温になっています。
自動車メーカーが生産量を維持しながら効率化を図れるよう、Chemours（ケマーズ）は、新型車が燃料を大量に消費する旧型の大型エンジンに匹敵する性能を発揮しつつ、メンテナンスの必要性を低減できる製品を開発しました。
シェアリングエコノミーにおけるメンテナンス
新しい規制だけでなく、今日では自動車に対する需要も変化しています。大多数の自動車は、1日平均48分使用されています3。しかし、カーシェアリングサービスで使用される車は1日の平均走行時間が数時間になることもあり、故障の可能性も高くなります。また、カーシェアリングサービスで使用される車は巡回スタッフが現場でメンテナンスをしなければならないことが多いため、問題はさらに深刻です。
自動車メーカーはカーシェアリングサービスの負担が少しでも減るように定期点検の間隔を長くしており、2013年から2015年にかけては8.8%間隔が延びました4。ただし、信頼性を高めるために、強力な化学物質を含む合成油が使用されています。こういった理由から、シェアリングサービスで使用される自動車は過酷な状態を強いられることになります。特に、シールやガスケットなどは、幅広い使用温度範囲でそうした化学物質に耐えなくてはなりません。
過酷な環境に耐える強靱な材料
60年前、こうした要求の厳しい用途向けに、当社のエキスパートがViton™（バイトン™）フロロエラストマーを発明しました。Viton™（バイトン™）のソリューションには柔軟性があり、-34～+226℃の温度範囲でシールの完全性を維持できます。Viton™（バイトン™）は、燃料やパワートレインの溶剤など、合成潤滑剤や刺激の強いその他の化学薬品にさらされる環境でも、その特性を維持できます。Viton™（バイトン™）フロロエラストマーのグローバルプロダクトマネージャーであるAnton Soudakovは次のように述べています。「自動車に使われているすべての溶剤は、摩擦を減らし、より長い保守点検間隔に耐えられるようにするため、粘度をさらに低くする必要があります。これらの合成溶剤は、シールやガスケットを傷めることがある化学物質を含んでいます。これらの部品はすべて、従来よりもはるかに化学物質に強いものでなければなりません」
一方で、モーターの小型化や高効率化に伴い、エンジン部品はすべて使用時の高温に耐える必要もあります。Viton™（バイトン™）は226℃までの高温に耐えてエラストマーの特性を維持できるため、この点でも役立ちます。ターボチャージャーによる灼熱の環境や、今日の狭いエンジンルームのオーブンのような環境にも耐えることができます。Viton™（バイトン™）は、このような過酷な状況下でも、ますます厳しくなる排ガス基準を満たすために必要なタイトなシーリングを維持できます。
「自動車産業は驚くほどの速さで変化しており、エンジンに使用される材料にも非常に厳しい要求が課せられています」とImbertは述べています。「使用温度が高くなり、内部圧力が上昇し、化学的環境もますます厳しくなっています。とはいえ、Viton™（バイトン™）をはじめとする高性能な配合のおかげで、私たちは今後数十年にわたって自動車産業の重要なパートナーでいられるでしょう」
化学の力を借りて新たな段階のイノベーションを実現している他の産業について詳しくは、Chemical & Engineering Newsをご覧ください。
